大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 平成3年(む)B71号 決定

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

一、申立の趣旨及び理由

本件準抗告の申立の趣旨及び理由は、右検察官作成の「準抗告の申立書」と題する書面記載のとおりであるから、これを引用する。

二、当裁判所の判断

別紙のとおり

三、よって本件申立は理由がないから、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官日比幹夫 裁判官倉沢千巌 裁判官園原敏彦)

別紙

一件記録によれば、本件は覚せい剤自己使用の事案であるところ、現段階においては、被疑者が本件犯行を全面的に否認していることから、その入手先、使用状況等について解明がなされていないものの(被疑者には新しい注射痕が認められないことから、その使用方法は嚥下によるものと推測されてはいるが)、他方で覚せい剤自己使用を裏付ける客観的証拠も収集されている。かかる状況の下で、被疑者は刑訴法六〇条一項二号、三号所定の事由があるとして勾留されているものであり、一件記録を精査しても、本件においては、被疑者を勾留しただけでは防止することができない強度の罪証隠滅のおそれを窺わせる事情を見出すことはできない(検察官の主張するところは、抽象的な可能性にすぎず、直ちに接見禁止を首肯する理由にはならない。)。

したがって、理由なしとして接見禁止等請求を却下した原裁判は正当である。

準抗告の申立書

罪名 覚せい剤取締法違反

被疑者甲野一郎

右被疑者に対する頭書被疑事件につき、平成三年六月四日浦和地方裁判所裁判官藤田広美がした被疑者と刑事訴訟法第三九条第一項に規定する者以外の者との交通につき、接見の禁止及び書類又は物(糧食、寝具及び衣料を除く。)の授受に関する裁判は、次ぎの理由により取り消されたく請求する。

理由

別紙記載のとおり

別紙

理由

一 本件は、捜査用車両で警ら中の警察官が蛇行走行する不審車両を認め、停止を求めたところ、右不審車両を運転していた本件被疑者の言動から覚せい剤使用者との嫌疑を抱き、任意同行の上、尿の提出を受け、右尿が覚せい剤の反応を示したため、被疑者を緊急逮捕するに至ったものであるところ、被疑者は覚せい剤使用について終始全面的に否認している状況にある。

二 覚せい剤自己使用事犯で、尿中から覚せい剤成分が検出されたことのみをもって立証可能で、罪証隠滅のおそれがないと考えるのは、覚せい剤捜査に対する安易な考え方にほかならず、近年覚せい剤自己使用事犯において、種々の弁解・否認が存することは説明を要するまでもなく、被疑者が他人と接見することにより、罪証を隠滅するおそれは極めて大である。

即ち、被疑者には新しい注射痕が認められないことから、嚥下した可能性が大であるところ、例えば、被疑者が他人と接見して通謀し、その他人が捜査機関に対し「被疑者の知らない間に、同人の飲み物に覚せい剤を入れた」旨通報することにより、極めて容易に罪証を隠滅することが可能である。

三 覚せい剤事犯に関する罪証は、単に罪体に関するものに限られず、使用の動機、使用の回数、入手状況、使用状況、使用後の状況等情状に関する罪証も極めて重要であることは言うまでもなく、同種前歴を有する被疑者が、これら情状に関する罪証を他人との通謀により隠滅するおそれも極めて大である。

なお、接見中、警察官の立会があるものの、右警察官は、捜査と関係のない警務課員であるので念のため申し添える。

以上のとおり、被疑者が証拠を隠滅することは極めて顕著であるにもかかわらず、単に「理由なし」として検察官の接見禁止請求を却下した裁判は、明らかに不当であるので、その裁判の取り消しを求める次第である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例